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大阪高等裁判所 昭和34年(ラ)112号 決定

抗告人 高橋幸一

相手人 春木繁治

主文

大阪地方裁判所境支部が同庁昭和三三年(ル)第三五号譲渡命令申請事件につき昭和三四年四月一三日なした電話加入権譲渡命令はこれを取消す。

本件を大阪地方裁判所堺支部へ差戻す。

理由

本件抗告申立の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

案ずるに電話加入権譲渡命令には転付命令類似の性質を有するものと、そうでない単純な譲渡命令との二種類があり、前者は電話加入権には一定の券面額がない関係上違法であつてたとい発付せられてもその効力はなく、これに反し後者は民事訴訟法第六二五条第二項の規定にもとづき発せられるものであつてこの場合本件のように当該電話加入権に対し他の債権者よりする仮差押等の競合があつてもなんら妨げとならないことは既に昭和七年五月三一日の大審院判決(大審院民事判例集一一巻一一号一〇九〇頁)に示されたとおりである。

ところで記録に徴すると原裁判所は差押にかかる本件電話加入権につき債権者たる相手方の譲渡命令の申請にもとづき鑑定人をして右加入権の価額を金一〇万五、〇〇〇円と評価させたうえ、相手方に対し執行債権元利合計六万一、四〇一円と執行費用一、七六〇円との合計額金六万三、一六一円と右評価額との差額金四万一、八三九円の納付を命じたのに対し、相手方は債務者たる抗告人に対し別口の執行力ある正本にもとづく金一三万八、〇〇〇円の債権があるとして右債権の一部と前記納付を命ぜられた金四万一、八三九円との対当額における相殺の申立をしたところ、原裁判所はこれを容れたうえ直ちに本件電話加入権を相手方が抗告人に対して有する債権金一〇万五、〇〇〇円の支払に換え金一〇万五、〇〇〇円で相手方に譲渡する旨の決定をなしこれを債務者たる抗告人および第三債務者の所轄局たる堺電話局へ送達したことが明らかであり、原裁判所のなした右措置からして本件譲渡命令は転付命令に類似する性質を有するものと解するのが相当である。

けだし現行民事訴訟法は債権者平等主義を原則としており執行債権の独占的満足を図る執行方法としては転付命令が唯一の例外であることにかんがみると、執行裁判所としては先ず譲渡命令申請人をして現実に電話加入権の代金から執行費用を控除した金額を裁判所へ納付させるか、公簿上配当加入権利者の登載がない旨の証明書を提出させたうえ前記相殺の申立を許容する等、譲渡命令送達前に他の債権者の有する配当加入の権利をそこなわないような措置を講ずることが必要であり、かかる措置こそ債務者審尋と並んで、正規の譲渡命令を転付命令に類似する性質を有するものから区別する基準であると解すべきである。しかるに原裁判所は債務者に審尋を受ける機会を与えた点において転付命令と異なる取扱をしたに止まり、右以外には他の配当加入権利者の権利を保護するに必要な措置をまつたく講ぜずたやすく相手方の相殺の申立を容れたうえ直ちに譲渡命令を発付し債務者及び第三債務者への送達をなしたものであつて右は重要な点において正規の譲渡命令発付にする手続を誤まり延いて本件譲渡命令をむしろ転付命令に酷似する性質のものたらしめたというべきである。

右の次第で裁判所のなした電話加入権譲渡命令は違法であつてこれが取消を求める本件抗告は理由があるので民事訴訟法第三八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 加納実 沢井種雄 加藤孝之)

抗告申立の趣旨

債権者春木繁治債務者申立人第三債務者日本電信電話公社間の大阪地方裁判所堺支部昭和三三年(ル)第二八号電話加入権差押命令に基いて同裁判所が昭和三四年四月十三日為したる別紙目録記載の電話加入権に対する同庁昭和三三年(ヲ)第三五号譲渡命令につき異議がありますので之を取消す。

との裁判を求めます。

申立の理由

一、申立人は債権者春木繁治に対する債務につき先に動産の差押を受け其の後分割弁済を為し既に十万円程弁済致して居ります処が別の債務名義に基く債務につき大阪地方裁判所堺支部昭和三三年(ル)第二八号事件を以て別紙目録記載の電話加入権の差押を受け此の差押命令に基いて同裁判所は昭和二三年(ヲ)第三五号事件を以て昭和三四年四月一三日別紙記載の電話加入権を債権者に譲渡すべしとの命令を発し之の正本を申立人は同年同月一四日送達を受けました。

二、処が此の電話加入権については債権者岡田乾電池株式会社債務者申立人との間の堺簡易裁判所昭和三二年(ト)第四九号電話加入権仮差押命令申請事件の決定正本に基いて仮差押を受けて居ります。

三、之が為申立人は譲渡命令につき異議があります。

申立人は他にも相当多額の債務を負担して居り各債権者に分割して僅か乍ら弁済しつつありますが別紙目録記載の電話加入権についても換価して債権を平等に弁済することについては何等異議ありませんが前記譲渡命令について異議がありますから民事訴訟法第五五八条により本申立に及びます。

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